鉄フライパンには、コツがいります。
慣れないうちには「くっついてしまって料理にならない」ことも珍しくはなく、嫌な印象を持ってしまう方も少なくありません。
くっついてしまうのには理由があります。
その多くは、使い方の問題です。
しかし、セオリー通りの使い方をしているにもかかわらず「くっついてしまう」のであれば、使用する油の種類に目を向けてみることをおすすめします。
以下、詳細の説明をしていきます。
使い方による問題
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鉄フライパンには、正しい使い方があります。
鉄フライパンは、油によって摩擦係数を低くしています。
くっつくということは「摩擦係数が高くなっている(油膜切れを起こしている)」ということであり、いかにして「油膜切れを防ぐか?」が問題になります。
ここで重要になってくるのが、温度です。
油は、低温では馴染みません。
そのため、「熱したフライパンに油を入れる」ことや「食材による(極端な)温度低下を防ぐ」ことがポイントとなります。
使い方の手順には、それ相応の理由があるわけです。


油返しをする理由
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鉄フライパンは、油返しをします。
油返しとは「熱したフライパンで多めの油を入れ、ある程度熱してからオイルポットに戻す工程」のことであり、これによって2つのメリットが得られます。
- 鉄に油が馴染みやすくなる
- 熱ムラ(温度差)が少なくなる
鉄フライパンは、空焼き後に油を入れます。
これは「空焼き後に油を塗布した場合が最も摩擦係数が低くなる」ためであり、繰り返されることで摩擦係数はさらに低くなることが確認されています。
鉄フライパンが「育つ」というのは、摩擦係数が低くなっていくことでもあります。
参考 鉄製フライパンの焦げつき性についてJ-STAGEまた、熱ムラ(温度差)の問題もあります。
鉄の熱伝導率は、良くありません。
もちろん、極端に「悪い」というほどではありませんが、銅やアルミと比べるとお世辞にも熱伝導率の良い素材ではないのです。
- 熱伝導率(w/m・k)
- 鉄:67.0
- 銅:386.00
- アルミ:204.00
熱伝導率の悪さは、熱ムラに直結します。
フライパンに熱ムラ(温度差)ができてしまうと「温度の低い部分でくっつきやすくなる」ことになりますので、部分的な焦げ付きが起こりやすくなります。
これらの理由からも、鉄のフライパンには油返しが行われます。

食材は少なめにする理由
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鉄フライパンに食材を入れ過ぎてはいけません。
温度が下がりすぎると、くっつきやすくなります。
これは、温度が下がることで鉄と油のなじみが悪くなり「油膜切れを起こしやすくなる」ためであり、油膜切れを起こすことでくっつきやすくなります。
油は、温度が低くなると粘度を増します。
鉄フライパンは油(油膜)によってくっつくのを防いでいますので、油の粘度が増して食材の方にくっついてしまうと油膜切れを起こしてしまうことになるのです。
温度を下げないためには、食材の量を調節する必要があります。
目安としては、フライパンに対して50%ほどが最適です。
それ以上になりますと「温度が下がりすぎてしまう」ことになりますし、少なすぎても「フライパンの熱(熱容量)が大きすぎて焦げやすくなる」ことになります。
動かし過ぎることのデメリット
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肉や魚は、表面が固まるまでは動かしません。
これらの食材は表面が熱変性することで「自然に剥がれるようになります」ので、剥がれやすくなるまでは「動かさずに待つ」ことがポイントになります。
食材をのせると、一時的に温度が下がります。
鉄フライパンは熱容量の大きなフライパンではありますが、温度が戻る前に動かしてしまうと食材をくずしてしまうことになります。
この点は、ステンレス鍋で炒める場合と同じです。
油の種類による問題
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油の種類が問題になっていることもあります。
プロの料理人が上手く調理できるのには、2つの理由があります。
それが、「ガスコンロの火力が強いこと」と「くっつきにくい(焦げ付きにくい)業務用の油を使用していること」です。
もちろんテクニックの問題もありますが、上記2点の影響力は無視できません。
ここで疑問に思うのが、「業務用の油って何?」ですよね?
全ての飲食店が使用しているとは言えませんが、一般的な飲食店では「業務用の揚げ油」や「業務用の炒め油」などを使い分けています。
これらの油には、添加物の違いがあります。
たとえば、業務用の揚げ油には(消泡剤としての)シリコンが添加されていますし、業務用の炒め油には(粘度を低くするための)乳化剤が添加されています。
一般家庭であっても、「(くっつきやすい料理の時だけでも)炒め油を使用する」というのは悪い選択ではありません。
まとめ
鉄フライパンがくっつくのには、明確な理由があります。
ポイントとなるのが「使い方(温度管理)」と「使用する油の種類」であり、基本的には使い方の問題によって焦げ付きやすくなっています。
どうしても改善できない場合は、「炒め油」を試してみることをおすすめします。