糠床の水分量には、大きな影響力があります。
たとえば、水分量の多い糠床は「酸っぱくなりやすい」ものですし、水分量の少ない糠床は「アルコール臭がきつくなりやすい」ものです。
これは、生育する微生物の酸素感受性が関係しています。
- 水分量が多い:乳酸菌が増えやすい
- 水分量が少ない:産膜酵母が増えやすい
最適な水分量は、60%前後です。
60%前後というのは「握ったときに水分がにじむ程度」の水分量であり、それよりも多すぎても少なすぎても糠床に生育する微生物のバランスは悪くなります。
以下、詳細の説明をしていきます。
水分過多で酸っぱい糠漬けになる理由
水分が多すぎると、酸っぱい糠漬けになります。
糠漬けの酸っぱさは、乳酸菌の生成する乳酸によるものです。
乳酸菌とは「(一定量以上の)乳酸を生成する微生物」を指す言葉であり、乳酸菌の勢いが強くなりすぎると、糠床(糠漬け)が酸っぱくなります。
乳酸菌は、空気(酸素)が苦手です。
空気を好まない微生物ですので、糠床の水分量多くなると「(水分によって糠床内の空気層が減ることから)勢い良く生育する」ことになります。
乳酸菌は、生育の早い微生物です。
生育の条件が整うことで「制御できないほどのスピードで増えてしまいます」ので、酸っぱすぎる糠床(糠漬け)になってしまうことも珍しくありません。

水分不足でアルコール臭のする糠漬けになる理由
糠床の水分量が少なくなると、アルコール臭が強くなります。
微生物の中には、アルコールを生成するものがあります。
その最たるものが産膜酵母であり、「乳酸を消費してアルコールを生成する」という特徴を持ちますので、産膜酵母の生育が過剰になるとアルコール臭が強くなります。
糠床における産膜酵母は、(条件付きでの)善玉菌です。
適度なアルコールは「糠床(糠漬け)に香味を加える」ものとして好まれますが、あまりにも増えすぎてしまうと「不快なシンナー臭」を放つようになってしまいます。
産膜酵母は、空気(酸素)が大好きです。
空気のある環境によって生育が活発になりますので、糠床の水分量が少ないと「(空気層が生じるために)増えすぎてします」ことにもなりかねません。

乳酸菌の生成するアルコールや酵母の存在
糠床の生育する微生物は、多種多様です。
「乳酸菌は乳酸を生成する微生物」「産膜酵母はアルコールを生成する微生物」というのは、あくまでも大枠での話であり、現実は頭が痛くなるほどに複雑です。
たとえば、乳酸菌の乳酸生成様式には「ホモ型」と「ヘテロ型」があり、さらにヘテロ型の乳酸生成様式には「タイプ1」と「タイプ2」があります。
- ホモ型乳酸発酵:乳酸
- ヘテロ型乳酸発酵
- タイプ1:乳酸+エタノール+二酸化炭素
- タイプ2:乳酸+酢酸
上記に、「水分量が少なすぎるとアルコールが生成される」と書きましたが、ヘテロ型タイプ1の特徴を持つ乳酸菌が生育する糠床では「水分量が多すぎてもアルコールが生成される」ことになってしまいます。
また、酵母(イースト)の問題もあります。
イーストは「糖を消費して炭酸ガス(二酸化炭素)とアルコール(エタノール)を生成する微生物」ですが、酸素がある環境では「炭酸ガスを多く生成する」、酸素のない環境では「アルコールを多く生成する」という特徴があります。
一概に、「水分量が少なければアルコールが増える」とは言えない部分があるのです。
まとめ
糠床の水分量は、糠漬けの味に深く関わります。
「糠漬けが酸っぱい」「糠漬けがアルコール(もしくはシンナー)臭い」などは、その多くが「水分管理の間違い」によって生じています。
しかし、同じ種類に分類されていても異なる性質を持つ微生物も存在しますので、確実に「こうすればこうなる」とは言えない部分があることが糠床管理の難しいところでもあります。