糠床は、2週間ほどでアルコールの香りが生じるようになります。
何も心配する必要はありません。
軽度のアルコール臭は「糠床が熟成してきている証拠」でもありますので、不安がることなく普段通りの手入れを続けていくことをおすすめします。
アルコールは、美味しい糠漬けには欠かせないものです。
アルコールが生成されているからこそ「糠漬けに芳醇な香りが加わる」ことになりますので、アルコールを生成する微生物は善玉菌であると言えます。
以下、詳細の説明をしていきます。
糠床から漂うアルコール臭の仕組み
産膜酵母は、乳酸を消費してアルコールを生成します。
アルコールの香りがすると言うことは「乳酸菌が増えて酸度が低下してきている証拠」ですので、糠床づくりの第一段階をクリアできたということになります。
糠床の表面に張る白い膜は、産膜酵母です。
産膜酵母(ピキア・アノマラなど)には、「乳酸菌の生成する乳酸を消費してアルコールを生成する」という働きがあります。
これによって、「糠床が酸っぱくなりすぎるのを防げる」「ぬか漬けにアルコールの芳醇な香りを加えることができる」などのメリットが得られます。
基本的に、糠床における産膜酵母は善玉菌です。
また、乳酸菌の中にもアルコールを生成するものがあります。
これは、乳酸菌の乳酸生成様式には「ホモ型乳酸発酵」と「ヘテロ型乳酸発酵」があるためであり、後者の場合にはエタノールが生成される場合があるためです。
- ホモ型乳酸発酵:乳酸
- ヘテロ型乳酸発酵
- タイプ1:乳酸+エタノール+二酸化炭素
- タイプ2:乳酸+酢酸
糠床に生育する微生物は複雑です。
学術的には同じ種類の微生物(乳酸菌や酵母など)であっても採取される場所や手入れの方法によって微妙に性質が異なります。
「糠漬けの味が家庭の味」と言われるのには、これらの微妙な違いが関係しています。
産膜酵母が増えすぎるとシンナー臭になる?
産膜酵母が増えすぎると、シンナー臭が生じます。
産膜酵母は、基本的には善玉菌です。
しかし、あまりにも増えすぎてしまう(大繁殖してしまう)と「シンナー臭の原因」になりますので、適度に生育を抑える必要があります。
糠床は、微生物のバランスによって成り立っています。
たとえば、乳酸菌が増えすぎれば「酸っぱい糠漬け」になりますし、産膜酵母が増えすぎれば「シンナー臭のする糠漬け」になってしまいます。
美味しい糠漬けには、酸味とアルコールによる香味のバランスが大切です。

酸素を遮断すると産膜酵母を抑えられる
産膜酵母は、酸素がなければ生育できません。
そのため、天地返し(糠床を混ぜ込むこと)によって、乳酸菌や酪酸菌などと産膜酵母のバランスを整えることになります。
- 乳酸菌:酸素が嫌い(嫌気性)
- 産膜酵母:酸素が好き(好気性)
暖かい季節には、1日2回の天地返しが必要です。
これは、温度が高くなることによって微生物の成育が活発になるためであり、天地返しの頻度を落としてしまうと「局所的な異常繁殖」の原因になってしまいます。
シンナー臭は、天地返しによって抑えられます。
天地返しのポイントは、産膜酵母から酸素を遮断することです。
産膜酵母は空気に触れている糠床の表面に膜を張るように生育していますので、糠床内部に押し込んであげることで生育を抑制することができます。
天地返しをした後は、空気を抜くように表面をならすことがポイントです。

まとめ
糠床からのアルコール臭は、産膜酵母が増えてきている証拠です。
産膜酵母は「乳酸を消費してアルコールを生成する」という特徴を持ちますので、乳酸菌が増えてくるとアルコールの香りが漂ってくるようになります。
軽度のアルコール臭は、熟成が順調である判断基準にもなります。