糠床には、定期的な足し糠が必要です。
足し糠とは、読んで字のごとく「米糠を足す」ことであり、新鮮な米糠と食塩(粗塩)を足してあげることで微生物(特に乳酸菌)の働きが良くなります。
乳酸菌は、栄養豊富な場所でしか生育できません。
糠床の主役は、糠床に生育する微生物です。
「何年物の糠床」のように表現されることもありますが、美味しい糠漬けのためには微生物が健全に生育している必要があります。
そのためには、定期的に新鮮な米糠を足していく必要があるのです。
米糠に含まれる栄養素は微生物の餌
米糠には、多くの栄養素が含まれています。
栄養価が高いからこそ、微生物が繁殖します。
しかし、そのままでは有益な菌(善玉菌)ばかりでなく有害な菌(悪玉菌)まで増えてしまいますので、「食塩と酸性pH」によって善玉菌の住みやすい環境を作ります。
この手間こそが、糠床を管理すると言うことです。
米糠の栄養素は、微生物に消費されていきます。
その副産物として有益な成分(乳酸、アルコール、うま味など)を残してくれるわけですが、微生物が働くほどに「微生物自体の餌が減っていく」ことは避けられません。
そこで、新鮮な米糠を足してあげるわけです。
乳酸菌の生育に栄養素が必要な理由
乳酸菌は、栄養豊富でなければ生きられません。
この点が他の微生物との大きな違いであり、乳酸菌の代謝系には欠陥があるために「ビタミンやアミノ酸など多くの栄養素がなければ生育できない」という特徴を持ちます。
ちなみに、大腸菌は糖分とわずかなミネラルがあれば生育できます。
乳酸菌は、栄養豊富なところに生育する微生物です。
しかし、栄養豊富な環境というのは「ライバルの多い環境」とも言えますので、大量の乳酸を生成して(pHを低下させて)ライバルを減らすことで生育しています。
これらのことからも、糠床の栄養素が不足すると真っ先に死滅してしまうのが乳酸菌でもあるのです。
発酵(熟成)しすぎた糠床の乳酸菌と酵母
糠床には、有益な微生物が「生育」している必要があります。
糠床の酸性pHは、腐敗防止に一役買っています。
しかし、乳酸菌の生成する乳酸はいわば「乳酸菌の老廃物」ですので、増えすぎれば自らが生成した乳酸によって死滅していきます。
乳酸を薄めるためにも、足し糠が必要なのです。
また、乳酸菌が減りはじめると産膜酵母が急激に増えます。
これは、「乳酸菌:強い乳酸耐性」「産膜酵母:乳酸菌以上に強い乳酸耐性」という感受性(耐性)の違いがあるためです。
乳酸菌が減ると、pHの上昇が起こります。
産膜酵母は乳酸菌の生成した乳酸を消費してしまい、pHの上昇した糠床には雑菌(腐敗菌)が生育しはじめてしまいます。
待ち受けるのは、糠床の腐敗です。
酸っぱくなりすぎた糠床が「急に腐ってしまうことがある」のは、(過度なpH低下による)乳酸菌の死滅がきっかけとなっているわけです。
足し糠のやり方(方法)と注意点
足し糠とは、新鮮な米糠を足すことです。
しかし、米糠だけを足してしまうと「塩分濃度が薄まる」ことになりますので、食塩による防腐効果が薄れて腐りやすい糠床になってしまいます。
足し糠をする際には、食塩を足すことも忘れてはいけません。
通常は、米糠に対して15%前後の食塩を加えます。
これは、野菜からでた水分によって「緩くなってしまった糠床を適切な水分量に戻す」ことも目的の一つとなっているためです。
これによって糠床の塩分濃度は6-7%前後に保たれることになります。
足し糠の量は、(多少)緩くなった糠床を元に戻すイメージです。
一度に多くの足し糠をしますと「糠床に対しての微生物が不足する」ために、作り始めた頃のような味気ないぬか漬けを食べる羽目になってしまいます。
足し糠の頻度に関しては、糠床の状態によって調節します。

「食塩と酸性pH」による糠床の防腐効果
糠床が腐らないのは、「食塩と酸性pH」による防腐効果のためです。
足し糠の際には、注意が必要です。
塩分濃度を下げすぎると食塩による防腐効果が薄れますし、足し糠が多すぎても酸性pHによる防腐効果が薄れてしまうことになります。
まずは、6-7%の塩分濃度を覚えることが大切です。
糠床に漬ける野菜には、好みがでます。
人参などのように「水分のでにくい野菜」を好む人もいれば、白菜のように「水分のでやすい野菜」を好む人もいるはずです。
これらの違いによって、糠床の塩分濃度は変化していきます。
15%の食塩を加えた足し糠によっても調節できます。
しかし、それだけでは「酸性pHを保てなくなる」ことにもなりかねませんので、「6-7%の塩分濃度を覚えておく」ことがポイントとなるのです。
はじめは難しいかと思いますが、まずは「糠床の味見」をしてみてください。
まとめ
糠床には足し糠をする必要があります。
足し糠を怠っていると「微生物の餌が不足する」ことになりますので、善玉菌である乳酸菌の働きが鈍っていくことになります。
塩分濃度の調節には経験が必要です。
はじめは難しく感じられるかもしれませんが、長く管理していると感覚で分かるようになっていきますので心配はいりません。