伝統的な糠床の作り方を説明します。
糠床の作り方に、絶対的な正解はありません。
「60%前後の水分量」「6~8%の塩分量」という基本となる条件はあるものの、各家庭によって異なるレシピが用いられています。
まずは、基本に沿って作ってみることをおすすめします。
なお、糠床づくりには時間がかかります。
2週間ほどで本漬けできるようにはなりますが、塩辛さが和らぐまでには1ヶ月ほどかかりますし、本格的に熟成してくるまでには2~4ヶ月ほどかかります。
手間がかかります。
しかし、冷蔵庫管理や市販の糠漬けには「負けない味」をお約束します。
目次
糠床の作り方と基本となる材料
糠床の材料は、たったの3つです。
「新鮮な米糠」「粗塩」「浄水器の水(もしくは湯冷まし)」があれば糠床をつくることができ、あとは手入れをすることで微生物のバランスをコントロールしていきます。
これらの材料を混ぜ合わせることで糠床のベースができます。
しかし、この段階では糠床ではありません。
糠床には「乳酸菌の生成する乳酸」がなければ雑菌が繁殖してしまいますので、2週間ほどの手入れを経て糠床と呼べるものになります。
糠床の材料は?
材料が少ないからこそ、品質にはこだわります。
米糠は「新鮮」でなければ美味しくなりませんし、食塩は「粗塩」でなければ糠漬けの食感が悪くなってしまいます。
以下は、作りやすい分量の一例です。
- 米糠:1kg
- 粗塩:150g(米糠の15%)
- 水:900ml(米糠の90%)
- 唐辛子:2本
基本の3材料の他に、防虫目的の唐辛子を加えています。
「うま味は?」と思われるかもしれません。
レシピによっては「昆布や鰹節などを加える」と書かれているかと思いますが、うま味を加えなくても美味しい糠床になりますので安心してください。
うま味は、足すものではなく生じるものです。
糠床の微生物(乳酸菌や産膜酵母など)がバランスよく生育していれば「自然にうま味が強くなっていきます」のではじめから加える必要はありません。
はじめはシンプルに作ることをおすすめします。
基本的な糠床の作り方は?
糠床は、上記の材料を混ぜて作ります。
「生糠にするのか? 炒り糠にするのか?」については好み(嗜好)によって変わってくる問題ですが、個人的には生糠をおすすめします。
なお、糠床容器につきましては(上記の分量であれば)6~8Lほどの丸型が便利です。

浄水器の水(もしくは湯冷まし)900mlに粗塩150gを溶かしておきます。溶かさなくても問題はありませんが、溶かしておいた方がムラなく混ぜやすくなります。

6~8Lの糠床容器に米糠1kgを入れます。糠床は(足し糠によって)徐々に増えていきますので、ある程度は余裕のある糠床容器を準備してください。

米糠に食塩水を加えて粉っぽさがなくなるまで練っていきます。

捨て漬け野菜と唐辛子2本を入れます。野菜などが空気に触れていると腐敗の原因になりますので、全体が糠床に埋まっているようにすることがポイントです。

空気を抜くように表面を均します。糠床容器の側面についた糠味噌は、キッチンペーパーなどを使ってきれいに拭き取っておきます。
これだけで糠床のベースは完成です。
あとは捨て野菜(キャベツの外葉などのクズ野菜)を3日間おきくらいに入れ替えながら「1日1回(暖かい季節は2回)の天地返し」を繰り返していきます。
2週間ほどで本漬けができるようになります。
カインズの動画が参考になります。
伝統的な作り方をベースとしている説明動画ですので、糠床づくりの「流れを把握する」にはおすすめできると感じています。

うま味の元となる食材を加えない理由
うま味の元となる食材を加える必要はありません。
特に注意して欲しいのが動物性のタンパク質です。
レシピによっては「鰹節を加える」「煮干しを加える」などと書かれていることもありますが、初期の段階でそれらの食材を加えてしまうと腐りやすくなります。
初期の糠床には、多くの雑菌が繁殖します。
それらの雑菌は乳酸菌が増えることで(pHが低下することで)死滅していきますが、タンパク質が多い場合には雑菌が増殖してしまうことがあります。
これには、pHの上昇が関係しています。
タンパク質が分解される過程で生じる窒素を含むアミンやアンモニアは「塩基性」ですので、動物性タンパク質を加えることでpHが上昇してしまいます。
糠床が塩基性(アルカリ性)になると、発酵せずに腐敗してしまうリスクが高くなります。


捨て漬け(捨て野菜)の目的は?
糠床を作るためには、捨て漬けをする必要があります。
捨て漬けとは、くず野菜などを漬けることです。
これによって「野菜に付着している乳酸菌を糠床に住み着かせる」ことができますので、糠床を美味しく作るためには欠かすことのできない工程となります。
とにかく、多種多様な野菜を漬けてください。
癖のない新鮮な野菜がおすすめです。
捨て漬けの目的は「乳酸菌を糠床に移すこと」ですので、キャベツの外葉や軸、人参のヘタや皮などがおすすめです。
捨て野菜をケチってはいけません。
糠床は「塩分濃度」と「酸性pH」によって雑菌の増殖を抑えていますので、早くに乳酸菌を増殖させなければpHが下がらずに雑菌が増えてしまう可能性があります。
クズ野菜がないのであれば、適当な野菜を購入してでも漬けてください。

日常的な手入れとその意味とは?
糠床には、手入れが必要です。
手入れといっても難しいことではなく、天地返し(上部と下部を入れ替えるように全体を混ぜること)を夏であれば1日2回、冬であれば1日1回行います。
これによって微生物のバランスが保たれやすくなります。
乳酸菌は、酸素が存在すると増殖できません。
しかし、天地返しをしないと酪酸菌という「無精香(履き古した靴下のような臭い)」を放つ菌が増殖してしまいますので、この手間を省くことはできません。
また、乳酸菌が増えてくると産膜酵母が生育をはじめます。
産膜酵母には「乳酸を消費してアルコールを生成する」という特徴がありますが、産膜酵母が増えすぎてしまうとシンナー臭の原因になってしまいます。
様々な微生物のバランスをとるために、天地返しが欠かせないのです。



糠床の熟成にかかる期間は?
糠床は、2週間ほどで本漬けできるようになります。
しかし、美味しくなってくるのは1~2カ月後からです。
糠床の熟成(乳酸菌や産膜酵母などがバランスよく生育する)には、おおよそ「夏季で約2ヶ月」「冬季で約4ヶ月」かかります。
その間は、「糠漬けがしょっぱい」と感じられるはずです。
熟成期間の短縮には、「床分け」が効果的です。
床分けとは「熟成している糠床を混ぜる」ことであり、知り合いに良く管理された糠床をお持ちの方がいるのであれば分けてもらうのも一つの手段です。
ちなみに、冷蔵庫管理の場合は違ったアプローチをします。
低温にすると、微生物の活動が抑制されます。
そのような環境では乳酸菌や産膜酵母による香味は望めませんので、うま味の元となる食材を大量投入することによって人為的にうま味を加えていきます。
冷蔵庫管理の糠床が美味しくならないのは、わざとらしい味付けになるためです。

精製塩ではなく粗塩を使わなければいけない理由
糠床(糠漬け)には、必ず粗塩を使います。
食塩は、化学的には塩化ナトリウムといいます。
その他には塩化マグネシウム(にがり)や微量の不純物なども含まれており、糠漬けには塩化マグネシウムが含まれていた方が美味しくなります。
以下は、塩化ナトリウムの含有率です。
- 精製塩:99.5%以上
- 粗塩:95%以上
糠床に精製塩を使うと、漬物の食感が悪くなります。
糠漬けには、歯ごたえのある野菜が合います。
しかし、粗塩(マグネシウムやカルシウム分を含む塩)を使わなければ、野菜の組織がしなやかになることで「くたっとした漬物」になってしまいます。
これには、細胞膜のペクチンが関係しています。
野菜の組織は、細胞同士がペクチンによってつながっています。
糠床に漬けられている野菜は、時間の経過とともに「ペクチンが水に溶けだすようになる」ために野菜特有の歯ざわりが失われていきます。
そこで役立つのが粗塩に含まれる不純物です。
ペクチンには「カルシウムやマグネシウムイオンと結合して不溶性になる」という性質がありますので、野菜が「くたっとしてしまう」のを防ぐことができます。
漬物全般に粗塩が好まれているのは、ペクチンを不溶性にするためなのです。
まとめ
糠床の作り方は、とてもシンプルです。
しかし、シンプルであるからこそ「米糠の品質」や「丁寧に手入れをしているのか?」が糠漬けの味に大きな影響力を持つことになります。
美味しいぬか漬けを食べるためには、手間を惜しんではいけません。